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倉持麟太郎
2020.9.3 12:07

「自由」と「法の支配」を貫徹する勢力がこの国にはいない

先日、よしりん先生と議論していて、自由や法の支配と保守やリベラル(日本のではなく)の関係について話題が及び、大変興味深かった。

 

憲法学の権威とされている長谷部教授は、朝日新聞に、3密のおそれのある営業については「営業の自由の埒外だ」と主張されていた。保障はされるが、公共の福祉(人権相互の衝突の調整)の観点から制限される、というのではない。そもそも保障されていない(=埒外)というのだ。

 

これはむちゃくちゃだと思う。

人権を制約するには自分の代表者が決めた法律で制限する必要がある、これが「法律の留保」であり、「法治主義」である。しかし、法律によっても奪えない権利制約があるはずで、その核心を守ることが「法の支配」であり、これを担保しているのが違憲立法審査権を有する司法権=裁判所の存在と機能だ。

 

①法律の根拠なく要請で自粛させちゃう(無法状態)

②法律の根拠に基づいて強制的(orときに強制的でないお願いベース)な制限をする(法治主義)

③法律の根拠に基づいていたとしても許されない(法の支配)

 

日本はこのコロナ禍において、ほとんどが①によっていて、市民社会の「自主規制」(=自粛警察)頼みで人々の自粛を調達した。責任も国家権力はとらない、ゆえに補償もない。

 

では、法律の根拠に基づいていれば何でもいいのか、そんなことはない。法律の根拠に基づいているといったときに重要なのは、その制限が本当に必要なのかを立証する「立法事実」というやつだ。

今回、本当に医学的にも各自由を強烈に制限するほどの立法事実があるのだろうか。「必要性」だけでなく、「許容性」をギリギリと詰めるのが法律家の役目なはずだ。

 

また、ピンポイントで休業要請をしたときに、その事業者の「営業の自由」(憲法22条)の制限はいったいいかなる違憲審査基準で正当化されるのか?他の職種、他の場所の同職種との「平等」(憲法14条)の問題はどうクリアするのか。これらの議論が、法律家や研究者から一切なされていないことに強い危惧感をもつ。リベラルなら、まず自由を死守すべきロジックを構築すべきだ。にもかかわらず、「3密営業は営業の自由の”埒外”」???

経済的自由に関する規制目的二分論は?平等権に関する実質的関連性は?

自主規制が自由の一番の脅威だと言ってきたはずだ。緊急時に自由を確保する必要があるからこそ、緊急事態条項の導入も検討すべきではないか?非常時に社会における自由の非常灯をどこまで照らすかを議論すべきではないか。憲法裁判所が権力の緊急時のふるまいを事後的に判断すべきではないか?これも、コロナ禍での憲法改正議論の核心なはずだ。自民党の火事場泥棒みたいな議論ではなく、リベラルこそ自由のための改憲論議でカウンターすればよい。

 

アメリカでは、「リベラル」とされる論客たちが、ナショナルアイデンティティやナショナリズムを当たり前の前提として論じる。その上で、それを実現する手法や、具体的な政策に落とし込む段階で差異が見られる。当然、リベラルにとっても憲法は「道具」なわけだから、より自由を担保するためには憲法改正を主張する。アメリカのリベラルの方が、「人道」を理由に戦争を支持したり、実際の兵力投入を躊躇しないという分析もあるくらいだ。

 

玉川徹や長谷部教授の議論をあわせて考えると、「コロナ怖い」と「憲法改正したくない」がすべての上位概念として存在し、その下に自由や法の支配があると思わざるを得ない。

 

コロナが投げかけた我々の社会における法治主義、自由、法の支配の問題は今後の保守やリベラルの議論にも強く影響すると思う。そんな議論を、13日の道場ではいたしましょう。

 

拙著『リベラルの敵はリベラルにあり』(9月9日発売)もよろしくね。

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倉持麟太郎

慶応義塾⼤学法学部卒業、 中央⼤学法科⼤学院修了 2012年弁護⼠登録 (第⼆東京弁護⼠会)
日本弁護士連合会憲法問題対策本部幹事。東京MX「モーニングクロ ス」レギュラーコメンテーター、。2015年衆議院平和安全法制特別委員会公聴会で参考⼈として意⾒陳述、同年World forum for Democracy (欧州評議会主催)にてSpeakerとして参加。2017年度アメリカ国務省International Visitor Leadership Program(IVLP)招聘、朝日新聞言論サイトWEBRONZAレギュラー執筆等、幅広く活動中。

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